キャリアはお嫁入り道具・もっと「みとめられたい」女たち

2011.07.14

すでにアイデンティティーをもち承認欲求を満たしたキャリアウーマンが、結婚を機に自己実現を達成するケースはさきに述べたとおりである。ところで、一方、一見アイデンティティーをもっだキャリアウーマンにみえ、承認欲求は自ら十分満たされているはずなのに、いつまでも、「もっともっと」と承認欲求を求める人もいる。こうした場合には、なかなか結婚できないという結果になるといえる。A子さんは身長一六五センチ、大柄でちょっとクラウディアーカルディナーレに似た感じの三二歳。骨格ががっちりしているが太ってはみえない。むしろイタリアの女性のようなグラマラスな印象を受ける。目が大きく、彫りも深く、はっきりとしたバタくさい顔つきである。アメリカの一流大学を卒業し、MBAの資格をもち、現在は日本で外資系企業を相手とする経営コンサルタント事務所のキャリアウーマンである。一見、何の申し分もないキャリアとスタイルの持ち主なのだが、A子さんの自分白身に対する評価はきわめて低いのだ。「私はかわいくない。ラブリー系の女じゃないからもてない」とA子さんは言う。仕事は忙しく連日夜九時頃までの仕事だから男性と知りあうチャンスはたしかに少ない。しかし、オフィスに出入りするクライアントの紹介ということを考えると、チャンスはないわけではない。A子さんは、「恋人をつくって結婚したいが、私は(外見が)かわいくないから、勉強して努力して留学し資格をとり内面を充実させようとがんばってきた。でも結局はどんなにがんばって内面を充実させても、外見は変わらないし、外見がかわいい人がどんどん恋人をつくっているなんて本当に不公平」と言う。「資格はお嫁入り道具のはずだったのに、まだ仕事してて、恋人もいない」とA子さんは嘆くのだ。B子さんは医学部在学中で五年生である。B子さんが医学部に進んだのは、親の期待が大きかったからである。親、とくにB子さんをかわいがってくれた父親(ほ親とB子さんは仲が悪かった)を喜ばせたいという思いで必死に勉強したのである。B子さんは「私は顔も悪いし、何か資格がないと自信がなくて結婚もできないと思ってた」と言う。B子さんをかわいがってくれた父親は二年前に亡くなり、B子さんはすっかり気持ちがおちこんでしまう。医学部の勉強はきびしく、つらい。ただ父親を安心させ、いい男性を同級生にでもみつければ結婚しよう、と思っていたのに、きびしい中でがんばる意欲がなくなってしまったという。B子さんはそれから過食したり、吐いたり、という症状をおこすようになってしまったのだ。一見キャリアをめざし、すでにアイデンティティーを確立したようにみえながら、実は「キャリアはお嫁入り道具」という女性がいる。彼女たちの特徴は次のような点であろう。自分に対する評価が低い。とくに外見に対して自信がない。格をとったりキャリアをもつことで自信をつけようとする。キャリアのない自分は何の価値もない、と感じている彼女たちは自分の外見に対する自信のなさを何かで補おうとする。何かがないと自分なんて男性に認めてもらえない、と感じている。このため必死になって勉強するのだ。しかし、一度こうした資格を手に入れても、なおも自分に自信がもてず、承認欲求を満たされないのである。では、彼女たちがそれほどひどい外見なのかというと決してそうではない。しかし自己評価は低いのだ。このアンバランスさはどこからくるのだろう。そして、なぜ彼女たちは恋人ができないのか。承認欲求がもう満たされているはずなのに、なおも自分を承認できず自己評価が得られないのは、マズローによれば、「必要とする時期に満たされないまま成長すると、その心的外傷により後々までそれに病的に執着するようになる」とされている。つまり子どもがその成長途上で、親から無条件に愛され受け入れられ承認されたという経験なしに育つと、承認に対する病的欠乏感に陥るのである。親から、「いい子ね」といわれ認められたいのに、その自然な欲求が得られないと、地位や名声に対する渇望からそれを追い求めるようになる。しかし、実は地位や名声がほしいのではなく、本当は「承認されたい」のである。いくら地位を得ても満足できないのは、承認に対する飢えなのだ。自分を受け入れられない女性の不幸A子さんやB子さんは、子どもの頃、母親から受け入れられ認められたという記憶がない。A子さんは母親に、「あんたって太ってるからセーラー服が似合わない、かわいくない」と言われたことをよく覚えているという。自分はかわいくないんだ、という思いこみはそれ以来続いている。B子さんも母親から、抱きしめられたことがない。母親は見にはやさしかったが、「あんたとは合わない」とB子さんに言ったそうである。彼女たちが、「何か仕事をしなければ自分なんて価値がない」と思うのは、仕事がほしいのではなく、「承認」がほしい、受け入れられたい、という欲求なのである。ところが、どんなに仕事や勉強をがんばっても、根本に存在する「承認されていない」空しさが顔を出し自己評価が低いままである。加えて、職業人としては意志が強く、自己主張できる行動力を求められ、その反面友人関係では(私的な面では)「かわいらしくやさしい受身的な」女性性を要求される社会の中で、自分のもつ男性的な行動力に対して、「かわいくない」とさらに自己評価を下げてしまうことになるのである。彼女たちはこんなふうに言うものだ。「私をかわいいと言って受け入れてくれる恋人がいたら、きっと自分の自信がつくと思います」自分を無条件でありのまま包んでくれる男性があらわれたらそれはすべての女の願望といえるかもしれない。しかし、「誰かが自分をみとめてくれたら自分を受け入れられる」という思考性は、他者からの視線と評価によって自分の位置が決定する、という依存的な自己評価なのである。自分を受け入れられない女性は、男性にとっては精神的に重荷になる。どんなに「いいよ、かわいいよ」と承認しても相手は、「もっともっと」と承認を要求するからである。恋人によって母親から得られなかった愛と承認を得ようとするわけなので、いくら水をかけてもすぐ乾いてしまう土のように労力を要する。これを察知した男性は、よほど彼女に恋をするか、よほどキャパシティーの大きい人格でないと引いてしまうのである。だから彼女たちの結婚は遅れていく。子どもの頃、親に受け入れられなかったという心的外傷をもつ女性はとても多い。そして、そうした彼女たちにとって必要なのは、一つひとつ自分で自分自身を承認し受け入れていく、という作業なのである。つらいけれど自分を受け入れた時、はじめて彼女たちは、自分を受け入れてくれる相手とめぐり会えるのだろう。

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