開演時間よりも少し早く着いたので、ロビーのイスに座って話の続きをすることにしました。「○○さん、資金繰り悪化の一因は、粗利益率の低さです。会社の生命線は粗利益なのです。人件費も、家賃も、光熱費も、すべて粗利益から捻出されます。粗利益のない仕事は仕事ではありません。それは奉仕です。まず、○○さんがやらなければならないこと、それは商品価格の値上げなのです」「値上げ」先ほどの人事への回答に引き続き、またもや専門家の言葉に驚きを隠せませんでした。「でも、専門家。そんなことをしたら商品が売れなくなってしまいます。商品が売れなくなったら、売上が落ちてしまう。それでは粗利益どころの騒ぎではありません」そうだよ。売上が落ちてしまう。しかし、ここで専門家は、今後の方針を決定づける重大な言葉を口にしました。「○○さん、粗利益のない売上なんて、いくら上げたって、疲れるだけでなんにもならないのですよ」「えっ。で、でも……売上が上がれば、お金が回るじゃないですか。そうすれば、自然に粗利益額だって増えていくのではないですか?たとえ利益率が低くてもそれを売上金額でカバーすれば、会社にお金は残るのではないでしょうか?製造工場だって、原価すれすれの仕事も、機械を回せばお金になるから受けるっていう話を聞いたことがあります」専門家は、今までより少し語気を強めて言いました。「製造工場は、加工をするところですよね。つまり機械を回すということは、加工を受注する、ということです。加工の原価は大ざっぱに言ってしまえば、機械の減価償却費と人件費です。つまり、仕入れが発生していないのです。だから粗利益がほとんどない仕事であっても、受注するメリットがあるわけです。工場が回るわけですから。でも、○○さんのところは仕入れた商品を転売する、販売会社なわけです。たとえば、100円で仕入れたものを150円で販売するという。それで、その差額の50円が利益になります。この50円から人件費、家賃を含めた経費が支払われるのですよ。もし、100円で仕入れた商品を100円で売ってしまったら、たしかに50円の値引き販売になり、お客様は大喜びでたくさん売れるかもしれません。でも、それをやっても○○さんの会社には1円も利益が生まれないのです。いいですか。たとえ100万円売っても、1000万円売っても、その商いでは経費は払えないのです」まだ納得できませんでした。「でも、でも、専門家は、売上、売上って、売上を上げることだけを言ってこられたではないですか。私はその言葉を信頼して、売上を追いかけてきて、それで月商1000万円を達成して、それで、資金繰りの懸念があったので、1000万円の融資を受けて、それが4ヶ月でなくなってしまって、それで、それで……」専門家は言葉を遮るように言いました。「○○さんのネットショップは赤字なのですよ。赤字ということは、簡単に言ってしまえば売れば売るほど損をしている、ということです。それはつまり、100円のものを仕入れて、90円で売っているようなものです。原価を下回って販売すれば、そりゃ売れますよね。でもいいですか。いったん値引きで販売された商品を、正規の値段で買う人はいるでしょうか?」